新聞記事に見る 日本語表現の論理の乱れ
退職直前の最終セミナーで取り上げた3例を紹介する。 日本語でも、論理的に
大学病院でも産科医不足 研究・がん治療 瀬戸際
(前段略) 群馬大は、群馬県立がんセンターの婦人科に派遣している医師3人のうち2人を、4月に引き揚げる。
残る1人もいずれは引き揚げる予定で、すでに1月から新規の患者は受け入れていない。 (後段略)
出典 朝日新聞 2007年4月2日 朝刊 1面
この文章には、2つの医療機関が登場する。「1月から新規の患者は受け入れていない」のはどちらなのか?
文書構成上は「群馬大は」とあるが、「群馬大」は医師が増える予定である。新規患者の受け入れを停止したのは、
医師を引き上げられてしまった「群馬県立がんセンター」であろう。
主題が途中から転換してしまっている。
病腎移植の芽「残したい…」 病理医が「良心の手紙」
(前段略) 堤教授は、宇和島徳洲会病院の調査委員会が病腎移植症例の検証のため関係各学会などに派遣を受けた専門委員会(6人)に参加。
昨年12月からカルテ閲覧や聞き取りなどの調査を進めてきた。 (後略)
出典 産経新聞 2007年3月31日
「派遣」という用語は、「賃」や英語の「rent」と同じで、関係において、どちらの方向でも使用できる。
したがって、「から」とか「に」などの格助詞を付して、明確な方向性を持たせる必要がある。
私は(人材派遣会社から)A株式会社に派遣された。
調査委員会が(中略)関係各学会などに派遣(を)要請したのを受けて、専門委員会(6人)に参加(した)。と直せば意味が通る。
「貸し切りバス」はいわば商品名と割り切れば許容範囲(私は嫌いだが)であるが
新幹線を貸し切って京都へ修学旅行に行った
という表現は大いに違和感を感じる
中国産アンコウにフグ? 毒成分検出 米、2人が不調訴え
米食品医薬品局(FDA)は25日までに、「中国産アンコウ」として出荷された魚に猛毒を持つフグが交ざっている恐れがあると、
消費者に注意を呼びかけた。シカゴでこの魚を使ったスープを食べた2人が体調不良を訴え、1人は入院。FDAが検査したところ、
フグ毒の成分テトロドトキシンが検出された。魚を輸入販売したカリフォルニア州の業者は自主回収に乗り出した。
FDAによると、テトロドトキシンは致死量が含まれている恐れがあるという。 (後略)
出典 朝日新聞 2007年5月26日 夕刊 15面
「象は鼻が長い」 これは立派な日本語である。
しかし、論理性が不明瞭と成りがちであるので、科学や技術を表現するときには、できるかぎり使用しない。