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新型コロナ報道と、それに対する老科学者の雑感 5月

日付け順に、上に追加するので、結果として逆順となる

公立・公的病院の再編統合に見直し ようやく本質に迫る議論を期待

『首相、コロナ感染症の対応も重視 公立病院の再編議論を巡り』 6月4日 共同通信から 『安倍晋三首相は4日の参院厚生労働委員会で、 公立・公的病院の再編・統合議論に関し、新型コロナウイルス感染拡大を踏まえ「危機管理への対応力向上も重要な視点だ」と述べた。』
そもそも、この公立・公的病院の再編問題は、昨年9月26日の「第24回 地域医療構想に関するワーキンググループ」において参考資料1 (公立・公的医療機関等リスト)として提出された 資料に基づき、その後の作業を反映させ、本年1月17日に各都道府県に対して、 「公立・公的医療機関等の具体的対応方針の再検証等について」として発出されたリストである。 ”医療地域構想”とか”再検証”とかソフトな言葉が並ぶが、要するに、一層の効率化のための病床削減、結果的に病院の削減・統廃合のリストである。 そこでは”平時”を想定し、感染症の様に一旦感染拡大した時=非常事態の対応は全く考慮されていない。 驚くべきことに、1月17日という日は、中国武漢ですでにコロナ感染者数は相当数に増加しており、また都市封鎖となる前であったが、市内の混乱状況は報道でも伝えていた時期である。 そんな時に医療機関の削減案が提出されたのである。今回のコロナ騒ぎで病床数が足りないと騒いでいた人達は、ほんの少し前に病床数を減らそうとしていた動きなど全く忘れてしまっている。
この削減リストに対して、主として削減対象病院の当事者達からの異議は出されていたが、一般には反応が鈍く、コロナが無かったら着々と計画が進行していた事だろう。

今回の新型コロナウイルス感染問題の本質は、文明の発達と感染症病原体との攻防という人類の歴史における繰返し過程の一つであると認識しているが、同時に、 近年の経済においてゆきすぎた効率化が進み過ぎ、その歪が弱い分野に集積してきた結果、その分野が応力を無くしてしまった結果であるとも考えている。
当事者の一つである国立感染症研究所しかり。 私は、目黒にあった予研(予防衛生研究所)の頃から何かと関係があり、見てきた。 脱線であるが、この跡地についてはココに歴史が記されている。 保健所しかり。一部は 3月-4月分に分けた別ページの 保健所・公立病院の「徹底的な改革」橋下徹氏発言 などにも記載した。 厚労省本省の医系技官しかり。彼らのこの数年来における最も重要な課題は総医療費の抑制であり、医療や健康政策の本筋とは異なる”やる気の失せる”課題ではなかろうか。

病院経営を圧迫

ここでは共同通信の記事から引用する。
全日本病院協会と日本病院会、日本医療法人協会は18日、新型コロナウイルスの感染拡大を受けた医療機関の経営状況に関する緊急調査結果(速報値)を発表した。 有効回答を得た1049病院を集計したところ、収入に対する利益の割合を示す4月の「利益率」は9.0%の赤字。黒字だった前年同月から10.0ポイント下落し、経営悪化が鮮明となった。 新型コロナを敬遠して外来患者が大幅に減ったことなどが影響したとみられる。 引用終了

共同の記事では「外来患者の減少など」と少しぼかしてあるが、外来患者が減少すると入院患者も減少する。なぜなら、外来診療を通じて入院治療が必要となる患者を見極めるからであり、 もう1つには、新型コロナ対策が進み、入院患者への面会制限が強化されたために入院(継続)をためらう人達がいるためである。さらに重大なことは、新型コロナ患者を受け入れると 収益がより一層圧迫されるのである。共同の記事には明記されていないが、 朝日新聞記事によると、 『コロナ患者を受け入れた病院では4月の病床利用率が67.1%と1年前より10ポイント以上落ち込んだ。』とあり、この事がより深刻な事態である。 感染対策のために、4人部屋にもかかわらずコロナ感染患者1人だけを入れたり、(NET上のコロナ体験記に書かれてあった)、あるいは個室に入れても、 病院側の都合では ”差額ベッド代”を徴収できないからである。
厚生労働省は4月からコロナに対応した診療報酬を増やした (安倍首相は「倍にします」と言っていたような気がする)(はずだ)が、損失を埋め切れていないようだ。

病床利用率・病床稼働率

新型コロナウイルス感染者数が増加しつつあった時期に、感染者対応の病床の8割以上が塞がっているなどという報道が続いたことがある。国民の ”危機意識”に訴えかける報道として一定理解できなくはないが、 少し事情通には大変おかしな理屈である。
そもそも、病院経営管理の名の下に、病床利用率をあげるように指導・誘導してきたのは国・政府である。病床利用率が6割だったらとやかく言ってその医療機関を廃止・縮小させて来た。そして、その誘導のために 診療報酬を改定し、病床利用率を高く(厳密にいうと、病床稼働率であり、この2者は定義が少し異なる)、平均入院日数を短くすればするほど 診療報酬が高くなる、つまり収入が増えるような仕組みに制度設計されているのだ。 端的に言えば、2泊3日した時に、ホテルでは2泊分の料金を支払うのが普通であるが、病院では3日分徴収される(できる)のである。

治療薬の話に希望が持てる別の理由

5月4日、安倍首相は緊急事態宣言を5月末まで延長することを決定・発表した。現状あまり意味のない今年のゴールデンウイークとなったとはいえ、未だ数日残す現在、(部分的にでも) 「解除」とは言えなかったのだろうと推測する。一方、治療薬やワクチンに関しては ”饒舌”だった。国民に希望を与えようと、明るい話題を提供したいのだなと、一定理解できる。 しかし、治療薬に関しては次の背景もあることに充分に留意する必要がある。つまり、これまでの中国や日本そして世界各国の状況から、新型コロナウイルスに感染しても多くは”治る”のである。 もっとも、一部は重篤化し、さらには死亡者も多数居るのは歴然たる事実であり、そうした当事者/関係者にはきつい言い方になるのかもしれないが、大半(8割以上)の人は、 この感染症に対する根本的な対処薬が無い現状でも回復するのだ。だから、患者にどんな薬を与えても、多くは(その薬を与えなかった場合と同様に)治るのである。 特に現在新型コロナウイルス感染患者に試験されている薬剤は全て、これまで何らかの病状に対する薬剤として「認可された」薬剤であり、その治験の過程で、 健常人に対して重篤な副作用を生じさせないことが確認されている。したがってよほど”食い合わせが悪い”ということが無い限り、重大な副作用は無いと考えるのが普通である。 なお、このような「従来認可薬の適用範囲の拡大」戦略は、最近の治療薬開発戦略の1つとなっている。
したがって、新型コロナウイルス感染者に対して真に効果があるか否かをテストするためには、偽薬プラセボ)を使用した二重盲検試験を実施して、偽薬に比して効果があったことを証明しなくてはならない。 多くの患者が治ってしまう状況では、この二重盲検試験で”有意な差”があることを見出すには相当大規模な治験が必要となる。その最終結果が出るまでは、人々に 一定の”希望”を抱かせ続けることができるのである。

新型コロナウイルスに関する新聞やTV報道と、それに対する私のコメント・雑感

新型コロナウイルスに関する新聞やTV報道と、それに対する私のコメント・雑感 3月から4月分

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