X線
レントゲン写真といえば、少なくとも我が国の中年以上の人達は何を差すのか理解できると思う。現在では、レントゲン線に代わってX線と呼ぶことが奨励されている。 X線とは波長1pm-10nm程度の電磁波である。光もまた電磁波であり、ヒトが自然な状態で認識できる波長範囲(可視光線)は約400nmから約800nmである(各波長範囲は分野・研究者により多少異なる)。
電磁波とは何か。電場と磁場の変化を伝搬する波と言葉では説明できるのだが、何も物質が無い真空中でも伝播するのである。イメージするのが非常に難しい。 光も電磁波である。そもそも光は粒子なのか波なのか、という論争は1600年代のホイヘンスの光の波動説とニュートンの光の粒子説に始まり、長い論争を経て、 1900年代の量子力学でようやく決着した。一見相容れない粒子と波の両方の性質を持つ つまり二重性とされた。 このような量子の世界は、言葉として理解できなくはないが、しかし正直に言って私は、なかなか実感しにくい。 だから勝手に、質量の移動を伴わない真空中のエネルギー移動 とイメージしている。もちろん、真空中に限らす、空気中でも物体の中でも移動可能であるが、その場合、他の原子などに衝突してそれ自身のエネルギーが移転する。結果として、自身のエネルギーが減衰、究極には停止・消滅、衝突された側ではエネルギーが増加し、 移動(運動エネルギーへの転換)とか、電子の励起などを引き起こす。
X線・放射線などの線は英語ではrayであり、lineではない
X線 英語ではX-rayであるが、そのrayに日本語訳として線をあてた。これが適切だったのか少し懸念している。 この意味での日本語で線、英語rayを含有する言葉(用語)には、まず放射線がある。しかし英語ではradiationと言うのが普通で、radial rayという表現もあるが 重複感が強い。このradiationは動詞radiateの名詞形である。英語rayは、英語radiationによって出てくるもので、それが相当に絞り込まれた方向性を持つもの としてこの用語が定義(?)されてきた。 だから電子線とか中性子線とか粒子性の強い物体については考えやすいが、一方英語では電子線 electron beam 中性子線 neutron beamと beamを使用するのが普通だ。電子線はブラウン管(旧式のテレビ受像機の画面描写部品)に見られるように、1個の電子ではなく、 多数がまとまって(束になって)出てくるのでビームと呼ぶのにふさわしいが、中性子線はハテナ。もっとも発生源しだいなのだが。
一方、X線、γ線などの電磁波のように、波長を持つものについては”線”の概念はフィットしにくい。ここでも電磁波の二重性に関係する。
光線、可視光線は専門用語として普通だが、一般社会では光を光線と呼ぶ人は少ないだろう。むしろ、雨戸の節穴から差し込む”一筋の光”など。
しかし下記参照。
紫外線・赤外線はすっかり定着し、逆に 紫外・赤外だけでは漢字で書かない限り意味が通じない。せいぜい「遠赤外」なら通じるかもしれない。これら光から赤外線まで、
ここに記したいずれも英語ではlightを用い、rayは用いていない。
英語radiateの意味
英語radiateはラテン語 radiusに由来するそうだ。それは幾何学の半径を意味し、また円の中心と周囲を繋ぐ物を差す。
この語の原意に忠実で、一般社会で最も知られている用語はラジアルタイヤであろう。
私はその用語は聞き知っているが車に詳しくないので引用させてもらう。WEB CARTOPから
ラジアルタイヤとは、タイヤの骨格=「カーカス」が、タイヤの中心から放射状(RADIAL)に配置されていて、それをベルトで締め付ける「ラジアル構造」のタイヤのこと。
自転車の車のスポーク(現在の自転車では少しねじれているのが多い)にあたる。原意に近い派生語として ラジアン radian 角度の単位がある。
このように、原語では中心から周辺へという方向性は必ずしも無かったが、電磁波や核物理学でradiationを用いるようになり、中心から周囲、さらには周辺(さらには遠隔点に)へと方向性を示す用語になったと考える。
一般の英和辞書では 中心から周辺へ 放出する/射出する という説明が多く、方向性を規定しているが、詳しい英英辞書では関連用語の説明に、その逆もあることが記されていた。
私は核物理学や核化学からradiationを取得したので、逆に、なぜラジアルタイヤと呼ぶのか不思議だったが、いつの頃か、この語源を知って納得できた。
音声ラジオ(電波の発射/発信に由来する)、ラジウム(キューリー夫妻の発見した元素)など多くの言葉が関連し、中心から周囲へという方向性を持つ。
自動車のラジエーター radiatorも関連語で、ここでは熱の放散という点で、中心から周囲への方向性を持つ。
アニメやゲームの世界のアイテムとしての線・レイ・ビーム
この稿をアップロードするにあたって、放射線、レイ、ビームなどの用語を検索サイトで調べたところ、なんと溢れかえっているのには驚いた。 どうやらアニメあるいはゲームの世界で、レイ・ビーム・レーザーなどが対戦アイテムとして使われていることに起因しているようだ。 そうした場でどう使われようが目くじらを立てることではないが、物理学的な概念に沿った使われ方なのか、少し懸念している。 と言っても、私はアニメやゲーム内容を調べる気にもならない。そうした世界に慣れ親しんでしまった子達が成長し、科学を学ぶときに適応できるのだろうか? 将来の科学は大丈夫なのかと、懸念している。
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