遺伝・遺伝子・遺伝病 に関する 用語解説
アレル allele 対立遺伝子 もっと詳しく 対立遺伝子
遺伝 イデン heredity, genetics
子が親に似ることであり、また、似る性質が子に伝えられること。もっと詳しく、遺伝
遺伝構成要素 イデンシコウセイヨウソ genetic component
この用語は確立したものではない。1990年のメンデル法則の再発見を機に、近代遺伝学が開始され、 1950-60年代の分子遺伝学(分子生物学)、1980年のDNA組換え技術を経て、 遺伝の実体が塩基配列によって規定されていることが明らかにされてきた。 従来、遺伝子レベルの概念で説明されてきたことも、最近では、塩基配列レベルの概念で説明する方がより適切で、 また、遺伝子レベルの概念とは整合性のとれない場合が増えている。1例を、「対立遺伝子」のページに記載した。 そのような場合に、このウエブサイトでは「遺伝構成要素」と表現している。 (古典的)遺伝学の立場では「遺伝子」、分子遺伝学の立場では「塩基配列」と置き換えることができる。 生物種によって遺伝(子)解析の進展状況は大きく異なっており、また、(研究)対象とする事象にも差があり、 当面は、両立場があるものとして理解する必要がある。
遺伝子 イデンシ gene
遺伝現象を担う実体であり、また、その機能的な単位をいう。用語が提唱されたときには実体は不明であったが、 現在は、核酸の塩基配列で規定されていることがわかっている。当初は、形質を決定する単位であったが、 「一遺伝子一酵素 one gene one enzyme」の概念を経て、現在は、(一応)ポリペプチド鎖をコードする単位と 考えるのが一般的である。遺伝、遺伝子などの基本用語が導入された経緯について「対立遺伝子」のページに記載した。
遺伝子型 イデンシカタ genotype
遺伝子診断 イデンシシンダン genetic diagnosis
遺伝情報を担う物質であるDNAを直接検査して、疾患を診断すること。 遺伝子の異常に起因する疾患である遺伝病や腫瘍を対象とするが、ウイルスや細菌のゲノムの存在を 検査する、感染症に対するDNA診断も大きな需要がある。遺伝子異常を特定できれば、発症した患者の病名を確定でき、 また予後と治療効果を予測できる。患者家系の発症前の家族や、出生前の胎児について、発症の可能性を予測でき、 また保因者であるか否かを診断できる。被験者の同意と診断後のケアが必須である。
遺伝子治療 イデンシチリョウ gene therapy
治療効果を期待して、遺伝物質である核酸を患者の細胞に導入して遺伝子操作すること。
生殖細胞のゲノム改変や、医学的効果の期待できない操作は、倫理的問題から除外される。
患者の体細胞を採取し、培養条件下に外来性遺伝子を導入し、再び患者の体内に戻すex vivo法と、
患者に外来性遺伝子を運ぶウイルスやリポゾームを直接投与するin vivo法がある。
当初、劣性遺伝病のように、遺伝子機能の欠損した患者の細胞に、クローン化された正常遺伝子を付加的に導入することが考えられ、
1990年に米国でアデノシンデアミナーゼ欠損症患者に対して実施され、一定の効果が認められた。
さらに、ヘルペスウイルスのチミジンキナーゼを導入した細胞を抗ヘルペス薬剤で殺すというような、
導入遺伝子の機能に着目した、腫瘍やAIDSなどの後天性疾患に対する治療も試みられている。
再掲時の補足。 gene therapy から進んで genetic therapy の呼称も用いられたことがあった。geneの直接の導入に限定することなく、
広く遺伝学の手法を用いて治療効果を期待する広範な分野をさす。
遺伝子発現 イデンシハツゲン gene expression
核酸(DNA)に記載された遺伝情報に基づいて、生命現象の実行物(多くは蛋白質)を作成する一連の反応。 DNAからmRNAができる過程を転写transcriptionと呼び、mRNAから蛋白質ができる過程を翻訳translationと呼ぶ。 一連の過程をセントラルドグマと呼 んだ時期があった。現在は、遺伝子発現の各段階における調節・制御の機構解明が目指されている。
遺伝子病 イデンシビョウ
遺伝子の損傷によって生じる疾患。 今日では、腫瘍は体細胞レベルで遺伝子の損傷によって発生することが確立している。 従って、古典的な意味での遺伝病と、腫瘍が含まれる。
遺伝病 イデンビョウ
どんな疾患も、遺伝要因と環境要因の両者が関係する。疾患の内、遺伝要因の関与が相当程度高い疾患。もっと詳しく、遺伝病 未
遺伝様式 イデンヨウシキ mode of inheritance
遺伝病が伝達される形式。優性遺伝様式と劣性遺伝様式および性染色体に係わる遺伝様式(伴性遺伝)がある。 転記時注釈 優性劣性の用語の問題について ヒト遺伝学とのかかわり のページを参照ください
OMIM オーエムアイエム
ヒトの遺伝に関する事項 (形質、遺伝病、遺伝子など) を分類整理したカタログ(テキスト型データベースともいえる)である Mendelian Inheritance in Man のオンライン版。
近交係数 キンコウケイスウ coefficient of inbreeding
親族の内で、個人と個人の相互間における遺伝的なつながりの強さを表す数値。 兄弟姉妹間=1/4。伯父と姪=1/8。いとこ間=1/16。またいとこ=1/64。 この数値は、共通な先祖から、同一遺伝子を受け継ぐ確率に相当する。
形質 ケイシツ character 遺伝的な性質のこと。
ゲノム genome
配偶子に含まれる染色体あるいは遺伝子の全体を呼称する言葉。 H. Winkler (1920) は半数性の染色体の1組に対してゲノムの言葉を使用した。 木原 (1930) は機能的な概念を付与し、生物の生活機能の調和と保つに欠くことができない染色体の1組をゲノムとした。 最近では原核生物やウイルスに対しても核酸分子全体を指す言葉として用いられ、大腸菌のゲノムなどとも言われる。
減数分裂 ゲンスウブンレツ meiosis, reduction division
倍数性生物で、配偶子が形成される時に、遺伝子(ゲノム)を半分にするような細胞分裂。 還元分裂ともいう。通常の細胞分裂である、体細胞分裂または有糸分裂 mitosis に対する用語。
後天 コウテン acquired
生まれた後に身に付いたこと。先天に対する用語。
座 遺伝子座 座位 ザ イデンシザ ザイ locus
遺伝構成要素(遺伝子または塩基配列。上記の遺伝構成要素の項目参照)の占める、染色体あるいは連鎖地図上の位置。 locusの訳語として、文部省学術用語集遺伝学編 昭和49年 では 「座」を採用していた。 私は 座位 を使用することが多いようだ。
疾患責任遺伝子 シッカンセキニンイデンシ a gene responsible for the disease
遺伝子の損傷と、発症との対応関係が確立された場合、疾患責任遺伝子という。 疾患原因遺伝子とも呼ばれる。対応関係が明確であっても、発症機構をうまく説明できていないことも多い。
常染色体 ジョウセンショクタイ autosome性染色体以外の染色体。ヒトでは22本で、2個セットとして44本である。
浸透率 シントウリツ penetrance
遺伝子型が表現型として反映される割合。変異のヘテロ接合体の全て(100%)が、一般集団とは別の表現型となる場合、
その優性変異の浸透率は完全であると言う。また、変異のヘテロ接合体は普通の表現型で、
ホモ接合体の全てが別の表現型となる場合、劣性変異の浸透率が完全であると言う。
100%でない場合、不完全であると表現し、「高い」とか「低い」とか、あるいは具体的な数字(%)であらわす。
浸透率が低いということは、平易に言うと、病気の遺伝子を持っているが、病気にならない人の割合が多いということ。
ある程度の年齢になって発症するような晩発性遺伝病などでは、当然、年齢を考慮して浸透率を算出するので、
いわゆる発症前状態が多いということを意味するのではない。
性染色体 セイセンショクタイ sex chromosome
性に特異的に存在する染色体で、性を決定する遺伝子が乗っている。 哺乳動物ではX染色体とY染色体で、Y染色体にあるSRY遺伝子が雄を決定する。 SRYの効果が無い場合には雌になる。 生物全体を見ると、性決定の機構は様々であり、雌がヘテロ接合性を示すZW系もあり、また、不明の場合も多い。
先天 センテン congenital
生れつき備わっている、生まれたときからそうなっていた ということ
染色体 センショクタイ chromosome
相同 相似 ソウドウ ソウジ homology analogy
対立遺伝子 タイリツイデンシ allele アレル 上記 アレルの項目 もっと詳しく対立遺伝子
多型 遺伝的多型 タケイ genetic polymorphism
同一生物種 あるいはその集団で、異なる遺伝的性質が共存していること。遺伝的な個人差ともいえる。
2倍体生物 ニバイタイセイブツ diploid
配偶子 ハイグウシ gamete
有性生殖をする生物において、両性の個体から形成される成熟した細胞で、合体するもの。精子と卵子。
ハーディ ワインバーグ法則 Hardy-Weinberg law
集団における 対立遺伝子頻度と、遺伝子型(を持つ個体)の頻度を理論的に考察し、 遺伝子型頻度は対立遺伝子頻度の積で表されること、また、任意交配している集団では 対立遺伝子頻度と遺伝子型頻度は 次世代でも変わらないことを示した法則。
ハプロタイプ haplotype
連鎖する2個以上(複数)の対立遺伝子によって規定される型。同じ染色体に乗っている型同士で組を作ること。 A座にA1とA2の対立遺伝子があり、B座にB1とB2の対立遺伝子があるとする。 どちらか一方がホモ接合性であれば、このハプロタイプを決めることは容易である。 AとBのそれぞれがヘテロ接合性であれば、A1と同じ染色体にあるBの対立遺伝子を知らなければハプロタイプを決めることができない。 家系が得られれば、父母の型から決めることができる場合がある。 家系が無くて当該者のみでも、クローニングやlong PCR法で決定できる場合もあるが、離れた位置では困難である。 一般集団を対象とする解析では、ある座がホモ接合性となる個体での他の対立遺伝子頻度に基づいて推定する場合も多い。 A1とB1が同じ染色体にあれば、この人のハプロタイプは A1-B1とA2-B2である。
ハプロ不全 ハプロインサフィシエント haploinsufficient または haploinsufficiency
変異によって機能を喪失するが、優性遺伝様式を示す場合に「ハプロ不全」という。 すなわち、機能蛋白質が半分量では正常な機能が発揮できなく、不充分であることを意味する。 特に、発生分化に係わる転写調節因子をコードする遺伝子などでハプロ不全が知られており、 これらの転写因子の必要充分量は厳密に調節されていると考えられている。 一般的に、翻訳中断による不完全長の蛋白産物は生体内で分解され易く、機能が無いと考えられやすいが、 その点が厳密に検証された例は少ない。また、試験管内実験結果を個体レベルでの反応と結びつけるのも困難な場合が多い。 従って、(一見)機能喪失であり、また、優性遺伝様式を示す場合、ハプロ不全という言葉が安易に使用されている傾向も見られる。
ヒトゲノム human genome
ヒトのゲノム。ゲノムの定義から1倍体(ハプロイド)に相当し、3000MbpからなるDNAが22本の常染色体と1本の性染色体に別れて存在する。 ヒトゲノムプロジェクトによって、真性クロマチン部分の塩基配列が解読された。 ヒトのように高度に組織化された生命体には10万程度の遺伝子が必要(従って、存在する)と予想されていたが、 予想と大きく異なり、約3万の遺伝子しか存在しないことが明らかとなった。 選択的スプライスは、一定数の遺伝子から多様な産物=蛋白質を形成する機構として重要である。
表現型 ヒョウゲンケイ phenotype
個体を観察(多少の実験を含む)して区分できる形質(遺伝的な性質)の違いを 表現型と呼ぶ。
ヘテロクロマチン ヘテロ染色質 heterochromatin
ヘテロ接合性 ヘテロ接合体 ホモ接合性 ホモ接合体 ヘミ接合性 ヘミ接合体
「ホモ、ヘテロ、ヘミ と 接合体、接合性」ページに紹介した。 現在まだ再掲載に至っていない。
発端者 ホッタンシャ proband
症状などから遺伝病の可能性が考えられ、家系調査のきっかけになった個人。
発見の経緯や、解析対象としてのはじまりを意味し、変異遺伝子継承のはじまりを意味する用語ではない。
ホモロジー homology (ホモロガス ホモログ)
古典遺伝学では (生物の形態などにおける)根源的類似性のことで 相同 と訳された。単なる類似性 analogy 相似と対比する用語である。今日の分子生物学的遺伝学では 塩基やアミノ酸の配列が類似していること、さらには、 配列の類似性に基づく 遺伝子・蛋白質などの類似性をいう。 しかし、ホモロジーの用語には深意があり、また、論争の多い用語である。 もっと詳しく ホモロジー のページで説明し、学問における概念の変遷を語る。
保因者 ホインシャ (genetics) carrier
劣性遺伝病において、病気の遺伝子をヘテロ接合性に持つ個人をいう。保因者自身は病気を発症することはない。
優性 ユウセイ dominant
優性劣性の用語の問題について ヒト遺伝学とのかかわり のページを参照ください。
優性遺伝病と劣性遺伝病がある理由 を補う予定
有性生殖 ユウセイセイショク sexual reproduction
劣性 レッセイ recessive
優性劣性の用語の問題について ヒト遺伝学とのかかわり のページを参照ください。
優性遺伝病と劣性遺伝病がある理由 を補う予定
連鎖 レンサ linkage
ゲノムが伝達される過程で、2個(さらにはそれ以上の複数)の遺伝要素が挙動を共にすること。 この場合、細菌など一倍体生物についても連鎖の用語を使用し、遺伝子・対立遺伝子・座、さらには規定される表現型について、 連鎖する(あるいはしない)と表現できる。遺伝情報は塩基配列によって規定され、いわば一次元の紐状であり、 組換えたり、あるいは切断を受けたりした場合でも、近接する遺伝要素ほど同一のユニットに入る確率が高くなる。 連鎖の程度は通常、(逆からみた) 組換え率で表され、組換え率は、核酸上の距離が遠ければ大きくなる。 ただし、特別な構造(組換えのホットスポットなど)の影響を受けるので、生物学的距離と物理学的距離とは完全には一致しない。