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ヒト遺伝学とのかかわり

私が以前所属していた 国立小児病院小児医療研究センター ならびに 国立成育医療センター のサイト  www.nch.go.jp/genetics/ で、一般向けに公開していたページをいくつかここに再現・再掲した。

私の本業は 分子生物学手法を用いてヒト遺伝子を単離したり、構造や機能を明らかにして、 ヒトの遺伝にかかわる諸問題を解明することであった。 本業に関係する情報を専門家向けに発信していた。 それに加えて、一般向けとして、遺伝に関する基礎的知識の普及を心がけた。 我が国では、遺伝、特にヒトの遺伝に関して古い考えが残っていて、遺伝病に関する ”誤解” や ”偏見” が多く見られていたが、 それらを少しでも解消したいという意図があった。 1980年以降急速に発展したヒト遺伝学によって、「遺伝」はDNAとか「遺伝子」によって語られるようになり、またヒト以外の分野における「遺伝子の研究」は(どちらかと言えば)明るいイメージで紹介されることが多く、そうした流れによって、この40年間に 遺伝の暗いイメージは次第に薄らいで来たようにも思われる。しかし、まだまだという気もする。

そこで、遺伝に関することも書きたいのだが、それには「遺伝学用語」の説明がまず必要で、 そのため以前に掲載していた 遺伝・遺伝子・遺伝病 に関する用語解説を 再現・再掲する。(注1)
さらに 次のページも加えた。
優性遺伝病と劣性遺伝病がある理由
対立遺伝子 アレル
ホモ ヘテロ ヘミ と 接合体 接合性
ホモロジー 用語概念の変化を学問の進展と合わせて語る 
病気の遺伝子が蓄積すると、何億年かの後で人類が滅亡するような危機にならないか


関係学会における「遺伝学用語の改定」

日本人類遺伝学会は2009年9月に 用語改定の会告を出した。
日本遺伝学会は2017年9月に 用語改定を発表した。(注2)
日本医学会は2017年12月に  遺伝学用語改訂に関するワーキンググループ を発足させた。
その資料に社会の反響も含めて一連の動きが紹介されている。

これらには、私が問題を感じていた locus, allele, mutation, mutant, variation, variant が含まれ、 また dominant, reccesive も含まれている。
私の当時の意識はなにも私独自な考えではなく、何人かと共有していたことで、私より少し上の世代の研究者達が 積極的に動かれた結果だと推測している。
問題の基本は、1900年頃メンデルの法則の再発見を機にできた「遺伝学」の流れ=古典的な遺伝学と、 20世紀後半の分子生物学の発展により解明されてきたDNA、遺伝子、さらには塩基配列に基づく「遺伝学」との整合性の問題である。 この点は 日本人類遺伝学会会告の改定理由3に言葉を変えて紹介されている。
現在さらには今後を担う若い世代が 「遺伝」といえば 遺伝子・塩基配列から起想するようになれば あまり問題ではないのかもしれない。 両方を知る世代だからゆえの悩みだったかもしれない。

私は  ワトソン 組換えDNAの分子生物学 第3版 の翻訳者の一人としてかかわり、同書初版を2009年1月に刊行した。 同書の私が担当したヒトに関する部分、遺伝病・がん・法医学の3章について、alleleをアレル、mutationを文意に応じて  変異あるいは突然変異と区別して訳出した(つもりである)。