毎月勤労統計調査の統計学
厚労省発表の「賃金データの見方」 数値の根拠に一貫性が無い
このシリーズの私サイドの経緯と雑感で、”厚労省の提示した毎月勤労統計:賃金データの見方」についてのコメントを記載した。 そこで、「私の数字と厚労省の数字はまだ少し違うのは確かであるが、それぞれが別の根拠で示した数字であると理解している。」と記載した。どう違うのか説明しろ!というご意見をいただいたので、ここに補足する。同時に、毎勤統計調査においてウエイトとして機能する労働者数(の変化)を、厚労省がどのように考えているかについても 解説したい。
毎勤調査原表での労働者数の記載法 2つの月末
毎勤調査原表での労働者数の記載様式を下に示す。
平成X年X月分 毎月勤労統計調査全国調査結果原表 (速報値/確報値) |
常用労働者数 |
前調査期間末 | 本月中の増加 | 本月中の減少 | 本調査期間末 | |
パートタイム労働者 |
このような表記だから、ある月の月末時点での労働者数が2つ存在することになる。たとえば、平成31年1月末の労働者数は
1月分調査結果に記載された 「本調査期間末」の労働者数
2月分調査結果に記載された 「前調査期間末」の労働者数 の2つである。
私は、ある月の調査結果の期間末の数字を一貫して使用している。このページのように、特に厚労省数字と比較するような場合には、その旨記載して使用する。
それに対して厚労省の説明文などでは、この2つを、ある意味では巧みに、別の意味ではご都合主義的に使い分けている。
これらのうち、厚労省が「全国平均給与額」の計算に(ウエイトとして)使用しているのは、その月調査分に記載の「前調査期間末」の労働者数と「本調査期間末」の労働者数の
平均値である。厚労省説明(の一部)に「和」と記載されているが、ウエイトとして使用する場合、それらの比率が問題であるから、「平均値」でも「和」でも同じことである。
なお、この”平均”労働者数を使用した場合、私が解析した全期間について、毎勤原表に記載された「全国平均給与額」は加重平均値と一致した。
Excel計算値のページに記載したように、最大1円の差を生じたが、これは丸め数字に起因する。
次にその他の厚労省説明に使用された数字(以下の表で 厚労省発表 と記した)について見てゆくのだが、上記の説明で示すように、同一時点の「月末」をあらわす
用語が2つ存在するので混乱しかねない。そこで
1月分調査結果に記載された 「本調査期間末」を 月末 調査月を明記する場合には当月末
2月分調査結果に記載された 「前調査期間末」を 2月調査の月初 調査月を明記する場合には前月末
と言い換えて説明する(場合がある)。
2018年1月ベンチマーク更新時の労働者数”消滅”数
月末方式の計算 | 平均方式の計算 | 厚生省発表 | ||
D群 | 1911千人減 | 1857千人減 | 1857千人減 | 平均法に基づく |
全国 | 1155千人減 | 1086千人減 | 1072千人減 | 根拠不明 下記 |
2018年1月分の49,644,298人は平均法による数字であるが、12月分の50,716,501人にピタリあてはまる数字は無い。
2018年1月ベンチマーク更新時のウエイトシフトによる平均給与額の変動
「決まって支給する給与」について、2017年12月の額に対して、2018年1月のウエイトで計算した場合の差(押上げ効果)と、 2018年1月の額に対して、2017年12月のウエイトが継続したとして計算した場合の差(押下げ効果)を示す。これらの計算はいわば仮定の計算であり、 得られた差額が1月以降の全国平均給与額を”押し上げる”効果を生じることになる。
ウエイト変化の効果 月末方式の計算 |
ウエイト変化の効果 平均方式の計算 |
厚生省発表 | |
12月分で計算 | 2106円増 | 2080円増 | |
1月分で計算 | 2248円増 | 2221円増 | 2086円増 |
上記の計算結果を基に、ウエイトシフトを論じた英語版で、2018年1月の全国平均給与額に及ぼす効果は¥2200と記載した。 一方、厚労省の発表では、サンプル入れ替えとベンチマーク更新の影響を合わせて2086円と「見方」で記している。この数字は、1月分発表値と、 「参考値」として示した、共通事業所=サンプル入れ替え時に、入れ替えられることなく、継続して調査された事業所を基に得られた数字) の額との差である。 参考値におけるウエイト構成比はおおむね12月に近い。しかし、この参考値として公表されている原表にも問題点があることを別にページで指摘する予定だ。>追加した 参考値のページ
2009年1月ベンチマーク更新時のウエイトシフトによる平均給与額の変動
別ページ「ウエイトとして機能する 各群における労働者数推移 グラフの説明」で示したように、2009年1月のベンチマーク更新時にも D群労働者数の大きな減少があった。この時のベンチマーク/サンプル交換時の全国平均給与額に及ぼす効果についても、厚労省発表「賃金データの見方」に示されている。 将来、この2009年1月のベンチマーク/サンプル交換時の変動について記す予定であるから、2018年1月の表を示したのと対比的に数値だけを示しておく。
「決まって支給する給与」について、2008年12月の額に対して、2009年1月のウエイトで計算した場合の差(押上げ効果)と、 2009年1月の額に対して、2008年12月のウエイトが継続したとして計算した場合の差(押下げ効果)を示す。これらの計算はいわば仮定の計算であり、 得られた差額が1月以降の全国平均給与額を”押し上げる”効果を生じることになる。
ウエイト変化の効果 月末方式の計算 |
ウエイト変化の効果 平均方式の計算 |
厚生省発表 | |
12月分で計算 | 2487円増 | 2493円増 | |
1月分で計算 | 2306円増 | 2314円増 | 3347円減 |
どのような計算方法によっても、ウエイトシフトの点からは2300-2400円程度の引き上げ効果を生じた。比較的低給与であるD群労働者数が 大幅に減少したため、当然期待される効果である。それに対して、「見方」ではこのベンチマーク更新/サンプル入れ替えによって3347円減少効果をもたらした と記載されている。2018年時と同じように、共通事業所あるいは継続調査との比較からその数字を出しているのだと思われるが、現在はその結果は記載されていないので、真偽は不明である。しかし、この点もミスリードの大きな要因であると考える。
ベンチマーク更新時における全国労働者数の段差の数値
2009年初、2012年初、2019年初にベンチマークが更新された。それぞれにおいて、全国の労働者数の増減幅が厚労省「賃金データの見方」に記載されている。 これを各計算法によって比較する。
時期 | 全国労働者数 月末方式の計算 |
全国労働者数 平均方式の計算 |
厚生省発表 「見方」 |
月末と月初の差なら |
2009年初 | 2.73%減 | 2.50%減 | 2.3%減 | 2.25%減 |
2012年初 | 2.00%増 | 2.08%増 | 2.3%増 | 2.31%増 |
2018年初 | 2.28%減 | 2.14%減 | 2.1%減 | 2.04%減 または 2.11%減 |
厚労省発表の「見方」では小数以下1桁で記載されている。私の計算結果は2桁まで示した。厚労省が全国平均給与額算出に使用している労働者数は ”平均方式”である。ならばこの3時点での変化を、 2.5%減、2.1%増、2.1%減としてよいはずである。しかかし、減少の場合は値をより小さく、増加の場合はより大きく示したいらしい。月末と月初(注 上記参照 便宜的な表記である)の差を試算した。なぜこのようなことが生じるかは別に説明する予定だが、”印象操作”と考えたくなる ”一貫性の無さ”である。注 2018年初の解析で、2.04%減は毎勤原表の数字、2.11%は上記の毎勤原表には無い50,716,501人を使用した場合の数字。
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