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毎月勤労統計調査の統計学

2018年6月の高い伸びはウエイトシフトで説明できる

2018年6月の毎勤統計調査における”全国平均給与額”が前年同月比3.3%と高い伸びを示した。このことでエコノミスト達から同調査に対する懸念の声が上がり、結果的に、毎勤調査における2018年初の“秘かな変更”と“統計不正”が露呈することになったことは改めて説明する必要は無かろう。このサイトで示したように、毎月勤労統計調査における”全国平均給与額”は各群の推定労働者数をウエイトとして計算される仕組みとなっているから、その労働者数の影響を受けやすい構造となっている。2018年6月の”高い伸び”もまた、ウエイトシフト効果で充分に説明できる。その内で最も影響度の高いのは 順に以下の要因である。

要因1 ベンチマーク更新

2018年初にベンチマークが更新され、それによって比較的に安い給与であるD群から191万人(厚労省発表では185万人)の労働者が“削減”された。

要因2 新事業所の積極的な取り込み

ベンチマーク更新によって比較的高い給与であるA群の労働者数が少し増加し、それに加えて、おそらくは2018年から採用されたであろう「層間移動」(注1)を積極的に使用し始めた。 さらにA群は全数調査を建前としているから、ベンチマークに寄らず、いわば“新規出現事業所”を積極的に拾っている可能性もある。特に、雇用保険データに基づく取入れである。

要因3 4月一斉採用の労働者の反映時期のずれ

我が国の労働市場において、特に大規模な企業では卒業生を採用し、4月に一斉入社させるという慣行がある。先の労働者数推移グラフに見るように、従来から(=2017年までのデータでも)、大規模・中規模事業所の労働者数が年間ピークをつけているのは4月ではなく、少し後づれした5月から7月であったことが多かった。この真の経済的要因はわからないが、2018年にもやはり、6月調査でAおよびB群で労働者数の増加が顕著であった。

要因4 夏期ボーナス支給月の偏りの回帰傾向

一般には、賞与(ボーナス)支給月は6月と12月と考える人が多いだろうが、毎勤調査結果を見ると、7月に支給する企業(事業所)も相当に多いことがわかる。 毎勤調査に付属する賞与データでは、このことを考慮し、調査対象月に幅をもたせて集計している。
規模の大きいA~C群については、(データを得て解析した範囲内で)2010年頃には6月と7月支給の賞与合計額の約64-67%が6月に支給されていたが、次第にその割合が低下し (=7月支給が増えた)2015年に62-63%と底を打ち、その後また上昇傾向(回帰傾向)にある。それゆえ、2018年は2017年に比べて賞与の6月集中度が少し高めであった。 D群についてはこのような傾向は無かったが、D群は賞与額が小さいので全体への影響度は小さい。(注2)


2018年6月結果の前年同月比とウエイト変化

  2017年6月   2018年6月   前年 同月比  
平均給与額 総額 賞与 総額 賞与 総額 賞与
全国 433,043 171,278 447,206 182,119 1.0327 1.0633
A群 743,431 384,354 771,451 401,599 1.0377 1.0449
B群 540,289 243,028 554,945 256,818 1.0271 1.0567
C群 432,413 173,975 436,223 78,021 1.0088 1.0233
D群 306,325 83,311 304,552 82,532 0.9942 0.9906
  労働者数 ウエイト(比) 労働者数 ウエイト(比)    
全国 50,205,894   50,206,995      
A群 5,432,955 0.108 6,109,678 0.122    
B群 10,089,899 0.201 10.216,756 0.203    
C群 12,860,105 0.256 13,254,919 0.264    
D群 21,822,945 0.435 20,625,642 0.411    
Excel計算値 432,942.66   447,093.64   1.0327  
 

2018年6月分の各群の平均給与額を 2017年6月分のウエイト(比)で計算すると、つまり
771,451x0.108+554,945x0.201+436,223x0.256+304,552x0.435=439125.48円となり (注5)、 前年同月比は 1.0143 つまり 1.43%増となる。
この値は、継続調査分として厚労省が発表した数字に近くなっている。

さらに、上に記した”夏季ボーナスの偏り”を2017年6月の割合に修正すると、Excel計算値は 437866.18円となり、前年同月比は 1.0114 つまり 1.14%増にまで低下した。
しかしいずれにせよ、1%程度の増加はあったのだろう。

なお付け加えるが、毎勤統計はAからD群の各群とも、小分類・中分類・大分類とそれぞれ加重平均によって積み上げられて全国レベルのAからD群が求められている。 ここでは単に、全国レベルでウエイトを変化させて計算している。各分類でのウエイト変化はそれぞれ異なり、また当然のごとく、産業構造変化による労働者数の変化に起因するウエイトシフトも あるだろうから、1つの参考試算と考えた方が良い。しかしながら、ベンチマーク更新による圧倒的なD群労働者数の削減が最も寄与していることは間違いない。