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毎月勤労統計調査の統計学

共通事業所調査結果は 全数調査対象の大規模事業所に大きく影響されている

毎月勤労統計では、サンプル入れ替えに伴う全国平均給与額の変動を計算するために、また継続した指標化指数を算出するために、 サンプル入れ替え後も引き続き調査対象となった事業所(=共通事業所)を選別して、それらの事業所のみから算出される結果を”参考値”として公表している。

部分入れ替えが実施された2019年1月についても参考値が公表された。従来値と参考値の全国集計の値の一部を下に記載する。

従来値 2019年1月調査      
  常用労働者数(人)   現金給与額 (円)
  前調査期間末 本調査期間末 決まって支給する給与
全国 50649405 50535685 258451
A群 6242652 6223489 369534
B群 10182636 10170495 294849
C群 13201046 13166230 251894
D群 21023071 20975471 214250
参考値 =共通事業所      
全国 50569621 50475202 260161
A群 6162868 6141065 369534
B群 10182636 10176050 296460
C群 13201046 13182664 254235
D群 21023071 20975423 214245

この参考値とともに厚労省はサンプル入れ替えに伴い全国平給与額が(ここでは「決まって支給する給与額」で)1710円低下したと強調し、継続調査に応じている事業所は 給与額が良好であると喧伝している。 確かにそうかもしれないが、データをよく見ていただきたい。従来値に比べて参考値で給与額を押し上げているのは、”建前として”全数調査となっている A群である。A群2.1% 7722円、B群0.5% 1611円、C群0.9% 2341円。
もし、参考値のA群を従来値のA群と置き換えた場合、つまり”全数調査”の対象はサンプル入れ替えの効果計算に参入しないと条件設定した場合、全国平均給与額(決まって支給する給与)は 259,385円となり、従来値との差額は934円と約半減する。なおこの計算は厚労省方式の月平均労働者数を用いている。その方式は2つの月末で詳しく記載した。

本年1~2月の議論で、全数入れ替えか部分入れ替えかを巡って大きな議論があった。その時参考に供された資料では、全国平均給与額であるから当然A群を含んで計算された値を使用している。 A群は全数調査であるから「全数入れ替え」にも「部分入れ替え」にも該当しない。その区別無く議論が進んだことも混乱の一因だと言える。
A群の影響を除去しない限り、サンプル入れ替え効果を論じることはできない。あえて言えば、サンプル入れ替わり効果と言うのなら許容できる。この点厚労省も多少気にかけているように思われ、 最近ではサンプル入れ替えではなく共通事業所という用語を使用することが多くなった。”入れ替え”には相当しないが”入れ替わり”分を除いた調査は、それはそれで一定の意味はあると考える。

労働者数の規模補正に乱れ? 原因はM76M77のAH群の労働者0人で200円程度の押上げ効果

共通事業所とは、上記の場合2019年1月調査分の事業所のうち、2018年1月分の調査にも含まれていた事業所であり、2019年1月調査分の部分集合であるから、その労働者数は当然小さな値となる。 それを一定の規模に”ふくらます”必要がある。
上記の表をよく見てほしい。「前調査期間末」の数字はBからD群までピタリと一致している。したがって、共通事業所分の集計値を従来値の「前調査期間末」に合わせて計算したのだろうと推定できる。 しかし、なぜかA群だけ、79784人少ないのだ。全数調査だから?いやそうではない。大分類を調べるとCからRまでの16区分のうち14区分で「前調査期間末」の労働者数に合致させてある。 内、71435人分は大分類M宿泊業であり(注1)、中分類M76飲食店 およびM77持ち帰り・配達飲食サービス業のAH群(1000人以上の規模)が労働者数0人となっていることに起因する。この詳細については別ページ全数調査の欠陥に 記載した。つまり、M76飲食店およびM77持ち帰り・配達飲食サービス業のAH群の労働者数はそれぞれ2~4万人規模で推移しているが、しばしば0人となる。よって、共通事業所が全く無くなるのである。 0人となると「前調査期間末」の労働者数を合わせることができなくなる。0で割れないからである。
M76とM77の平均給与額は大規模事業所にもかかわらず低額であり(パートタイムが多いことにも起因)これら両群のAH群がともに0人となると全国平均給与額が決まって支給する給与額で200円程度押上げる効果となることを紹介した。したがって、 2019年1月の参考値も同様に、この効果によって200円程度押し上げられている。

上記で紹介したような様々な要因を考慮することなく、単に算出された値のみを基に議論が進んでいる現状を大変に憂える。

2018年1月の参考値

2018年1月にベンチマークが更新され、毎勤における全国平均給与額を算定するためのウエイト構成比が大きく変化した。具体的には、比較的低い賃金であるD群の労働者数が激減し、 それによって全国平均給与額が大きく上昇したことは別ページでも記載している。
2018年1月にも参考値が発表され、そこでは参考値(継続調査分)の全国平均給与額(決まって支給する給与額)は従来公表値に比べ2086円減少していたことが示されている。 この時に参考値におけるウエイト構成比はD群が多い従来の体系に近いので、この金額差の主たる要因はウエイト構成比=D群労働者数の”高止まり”である。
しかし同時に、この時も各群それぞれの平均給与額を見ると、全数調査とされるA群の平均給与額の変動が最も大きい。ちなみにA群を入れ替えるならば、平均給与額の差は2086円から374円まで激減する。 もっともベンチマーク更新によるA群労働者数の増加も加味されるため、この減少幅にもウエイトシフト効果が加わることになるのだが。
さらに、この時は労働者数の調整が何を基準に行われているのか明瞭ではない。B~D群につぃてはエクストラ期間として調査された可能性があるが、A具群については、2018年1月から新規に調査対象 となった事業所を除去したのならば、従来公表値に比べて労働者数が減少しなくてはならないはずだ。全国レベルでは580万人に対し参考値550万人と減少しているのだが、大分類の段階では増加している 産業種もあれば減少している産業種もある。2018年1月の参考値における労働者数の規準化については不明である。

最後に繰り返したい。統計学の基礎知識に基づけば、平均値から離れた値こそ”決定力”が大きい。また、ウエイト構成比が大きいD群が”決定力”が大きいのは当たり前として、 A群は事業所数の点でマイナーであるけれども、抱える労働者数が多い(0.3%が11%)ゆえに”決定力”が大きいのだ。ごく当然のことである。