毎月勤労統計調査の統計学
ウエイトとして機能する 各群における労働者数推移 グラフの説明
毎勤統計で全国平均給与額を算出する時に、各群の労働者数がウエイトとして機能することを紹介し、その推移のグラフを示した。
このページでは、改めてそのグラフを提示しつつ、そこに見られる特徴について記載する。
なお、このサイトでは、事業所規模について 以下の略称で表記する。またグラフ下部の、年の横軸は2008年初から2018年末までの11年間であり、●印はサンプル変更時を示す。
事業所の規模 | このサイトでの 略称 |
500人以上 | A (群) |
100人から499人 | B (群) |
30人から99人 | C (群) |
5人から29人 | D (群) |
特徴1 ベンチマーク更新による 大きな段差
D群の2018年初に出現した約190万人の減少は、サンプリングに使用するマスター表(厚労省の用語はベンチマーク、以下関連ページでは”ベンチマーク”を使うことがある)を変更した結果/影響である。
この時、平成26年経済センサスに変更していて、それは平成26年(2014年)7月1日の経済情勢を反映するものである。別ページ、回収率と抽出率で記載するように、現在の毎勤の統計手法では、
労働者数はベンチマーク記載の労働者数に強く依存するため、このような結果となっている。実際、2018年1月のD群労働者数は 毎勤調査の2014年6月分の期間末労働者数とほとんど変わらない水準
となっている (補正による若干の変動があるようだが)。
同様に、2012年初のD群労働者数の小さな減少、および2010年初における比較的大きな減少もベンチマーク更新の結果の反映と考えられる。(注1)、前者は平成21年経済センサス、2009年7月1日の
労働者数を反映している。
また逆に、ベンチマーク更新時にはAとB群で小さな上昇がギャップとして出現している。C群についても少し変動している。
2009-10年といえばリーマンショックの真っただ中である。一見するとD群労働差数の減少はリーマンショックによる経済不況を反映しているとの錯覚を覚えるが、 AとB群では逆に少し増加している。リーマンショックの前、2003-2006年頃は小泉政権の時代で、好調な経済の時代であり、2014-2017年と同様にD群労働者数の高い伸びが見られたのであろう。 したがって、2018年のベンチマーク更新と同様に、いわば“先祖帰り”したのであろう。
特徴2 新規把握事業所
第2の特徴は、主として2012年から2017年末に見られるD群労働者数の顕著な伸びである。この現象は、いわば“新規出現事業所”“新規把握事業所”(以下 新事業所)の
取り込み(組み入れ)に起因すると考えられる。このような“伸び”は、2018年以降のA群を除いて、他では見られない特徴である。
D群は毎勤調査で「第二種事業所」として区分され、調査方法が異なる。経済センサスを使用するが、それは地域の選別のためであり、選別された地域(=「指定調査区」)を
統計調査員が“網羅的に”調査し、該当する事業所をリストアップし、その表を基に、調査対象事業所を抽出している。このことは厚労省ページでは詳細な紹介がされていない。
関係者は熟知しているのだろうが、多くの国民は知らないだろう。このことを明確に示す(いわば)証拠は、厚労省政策統括官から全国社会保険労務士会連合会会長宛てに出された文章に明確に記載されていた。
ただし、更新のためか、現在はリンク切れとなっている。この通知を受けた各地の社会保険労務士から会員宛通知などが残っている。
冒頭でいわば“新規出現事業所”を取り込むと記載した。地域を網羅的に調べて把握されるのは、多くはその調査区に以前から存在していた事業所であろう。 何も、新規開店あるいは新規設立の事業所を限定的に調べているわけでもない。しかし一方で、この地域調査を、指定調査区を変えながら継続していくことは、 全国レベルで見れば“新事業所”を把握する結果となる。つまりD群労働者数の高い伸びはこのような地域の統計調査員の地道な努力の反映ともいえる。 一方、D群労働者数の伸びが、毎勤調査の対象外の1~4人規模の事業所の集約化による結果だとする可能性は排除できないので、その点の検討はエコノミストに譲りたい。 一方、景気が悪い場合には、事業所の廃業などで、D群労働者数の減少につながるだろうことは想像に難くない。
それに対して、2018年以降のA群を除き、ベンチマーク更新時を除いてほぼ一定の水準を保っている。これは中央省庁の役人(つまり厚労省)がベンチマークに頼り、抽選・選別と集計作業に専念し、 “新事業所”の把握を怠ってきた結果を反映している。毎勤調査票に、その月の労働者数の増減を記載する欄があり、その増減が全国レベルに寄与する形ではあるが、その程度は僅かであり、 “新事業所”の労働者数を加えることによる増加の方がはるかに大きく寄与することはD群の労働者推移で明白である。
ところで、2018年初に“秘かに”変更された点の1つとして、厚労省説明による「層間移動」があげられる。たとえば、従来495人規模の事業所であったが、ある月に6人増加した場合、A群に参入させる という手続きである。また、雇用保険など他の情報に基づく新規組み入れである。A群は“建前として”“全数調査”であるから、そうした”新事業所“を組み入れしやすい。 A群の労働者数推移が2018年初を境に大きく変貌を遂げたことはグラフから明白である。これらの条件変更は将来的にもA群労働者数の増加傾向を促し、A群事業所は比較的高い給与水準であるから、 全国平均給与額の上方効果につながるだろう。もっとも経済情勢の方が優先するのは当然であるが。
特徴3 年内変動
グラフを見ると、A、B、C群に微細な周期的な変動がみられる。これは我が国の4月一斉入社と年度末に向かって退職者・離職者が継続することの反映と思われる。しかし興味深いことに、 AとB群で年内ピークをつけている月は、2008から2017年の10年間の延べ20年間で4回しかなく、多くは5月から7月に少し遅れてピークをつけていた。 一方、C群では年間ピークを秋につけることが多く見られ、より大規模の事業所の離職者を受け入れている 可能性も考えられる。この年内変動の真の経済的要因はエコノミストの見解を待ちたい。 「毎月勤労統計調査の統計学」においてはマイナーであるが、2018年6月の高い伸びとの関連で付記しておく。
なお、このページ、労働者数推移のフラフの説明に付随して 雑感を記した。そこでは少し政治的経済的なコメントを含むので「雑感」としてある。
年齢別調整がん罹患率(死亡率)などとの類似で、ウエイト調整型毎勤について記載した。
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